第1285号
2008年11月30日(日曜日)発行
こんにちは
音楽を通して愛と寛容と平等を
ギタリスト
ソンコ・マージュさん
「故郷の木は、いつもお前を忘れてはいない。樹は訊ねる。世界に出たお前は幸せなのか、それとも不幸なのかと……」
曲はソンコ・マージュさんが敬愛してやまない師父、アルゼンチンの世界的フォルクローレ・ギタリスト、アタウアルパ・ユパンキ(一九〇八〜九二)の「一本の樹」。
「ユパンキが私に最初に教えてくれたこともあって、忘れ得ぬ歌だ」とソンコさん。十二月二十一日、全国教育文化会館(エデュカス東京)で開かれる「婦民コンサート」にご出演くださるギタリストのソンコ・マージュさんを訪ねました。
ソンコさんが、ギターを始めたのは十五歳の時。その頃、スペインのクラシックギターの巨匠が来日しました。アンドレ・セゴビア。「こんな先生に教えてもらえたら、と思いました」スペイン政府の奨学生としてそのセゴビアに師事することができたのです。スペインに渡ったのは、二十六歳の頃でした。
その後、ソンコさんは生涯の師と仰ぐユパンキとの出会いを果たします。愛用のギターを贈られたのは三度目の来日の折。その情景をソンコさんはこう書いています。
「茶色のケースから取り出した愛器(ギター)に別れの口吻(くちづけ)をすると、思い切るかのように私の手に与えた」ユパンキがいつも「愛しの息子」と呼んでいたギター。ソンコ・マージュ(心の川の意)の名もこのとき贈られたものです。
ソンコさんは語ります。「これまで有名になる機会はたくさんありましたが、有名になるより、もっと大切なことがあると思いました。芸術家には哲学が必要です。その本質は自然が発するメッセージを受けとめて、それを翻訳し、発信することです」「音楽を通して愛とか寛容性とか、平等性を特に訴えています」
そして「ユパンキから難しいテクニックをもちろんたくさん教わりましたが、技術というよりは『ユパンキのヒューマニズムの弟子』だと思っています」とも。
フォルクローレは征服民であるスペインの音楽と被征服民であるインディオの音楽が混交したもの、この二つのルーツを一つにまとめたのがユパンキだとソンコさんはいいます。婦民コンサートには、その世界一と絶賛される演奏をきかせてくれることでしょう。