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第1283号

2008年11月10日(月曜日)発行

私の視点
澤地久枝

迷うことなかれ

この原稿が活字になり、あなたの手へ届くころ、アメリカ合衆国の新大統領はきまっている。どちらが勝っても、アメリカの前途は多難だ。しかし変わらざるを得ない窮地にあるのだ。

ブッシュ大統領の八年間だけとっても、戦争屋と化したアメリカは、国際間の信用を失い、世界金融危機の発火点となった。

政策の根本的転換をし、平和的着地をして、人々の暮らしに安堵をもたらすまで、時間をかけて新大統領の手腕が試される。

日本の政治状況は、アメリカの一卵性双生児めいていて、混乱と劣化の渦中にあり、つぎの衆議院選挙を待っている。この国も、軍需産業への露骨な全面的参加を企図する財界人と、各界の反動家たちによって、戦後の平和国家打ちどめの意図が露骨になった。

この前の戦争について、侵略戦争の責任を問われたのは「濡れ衣」と断定した航空幕僚長は更迭されたが、彼ひとりの意見ではない。論文募集(賞金三百万円、審査委員長・渡部昇一という)に応じたなかに、かなりの自衛官がいたといわれる。そのほとんどが防衛大学卒の自衛隊エリートであり、日常化していた本音がたまたま問題になったということであろう。彼等が半公然にせよ本音をいえる世相が生まれていることを、わたしたちは心にとめておく必要がある。

二〇〇七年七月の参議院選挙で敗れた与党は、麻生内閣によって、衆議院選挙で多数をとれると考えた。だが世論調査の支持は下降線をたどっている。与謝野経済財政担当相は、「世論調査の数字は、民意ではない」とテレビで発言した(十一月三日NHK)。民意とは国会議員の意志であり、憲法がきめているとも――。憲法違反、憲法踏みつぶしを企図する政治家たちが、御都合主義で憲法を楯にしている。麻生内閣の衆議院選挙先送りの図は、政治を私物化し、もてあそんでいるとしか表現しようがない。バラまき給付金二兆円の三年さきに、消費税値上げがあるというひどさだ。

いま求められているのは、日本政治の根本的な方向転換であろう。米国に追随して、戦争のできる国にし、民生をかえりみない政治のあり方に対し、われわれは賛成しない、絶対に反対であるという意思表示をしなければ、政治のこの方向は加速するばかりだ。

不景気を切り抜ける道は、憲法本来の国の姿に立ち戻ること、一人ひとりの意志をはっきり表明するべく、迷ってはならない。(作家)

 

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